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認知症施策推進大綱に見る、認知症との「共生」と「予防」

東京都健康長寿医療センター 理事長 鳥羽研二

 2040年には3人の働く人が1人の認知機能が低下した方を支える「認知症社会」とも呼ぶべき時代が想定されています。「認知症社会」に向けて政府の認知症関連閣僚会議では「予防と共生」をキーワードに認知症施策推進大綱を策定しました(2019年6月18日)。また、認知症基本法案の策定に向けて超党派による議論が進んでいます(2020年11月現在)。
 この間、私自身も認知症医療介護推進会議の意見を集約し、2018年に厚労大臣にオレンジプランの改善について答申しています。また、閣僚会議下の有識者会議の座長を務めた身として、認知症施策推進大綱の意義についてご紹介したいと思います。

 大綱のキーワードである「予防と共生」は議論の初めの段階から決定されており、これにどのような具体策を設けるかが議論の中心となりました。
 疾患の「予防」は、一般的には「病気にかからない」という意味の予防(一次予防)と捉えがちですが、徐々に進行し高齢になるほど劇的に増加する認知症では、「先送り」「悪化予防」「穏やかに」「共生」と言った幅広い概念で捉えられることが重要です。そのため、大綱全体の基準とすべく、冒頭の「基本的考え方」に採用されました。

認知症の発症を遅らせ、認知症になっても、希望を持って日常生活を過ごせる社会を目指し
認知症の人や家族の視点を重視しながら「共生」と「予防」※1を車の両輪として施策を推進

※1「予防」とは、「認知症にならない」という意味ではなく、「認知症になるのを遅らせる」「認知症になっても進行を穏やかにする」という意味

 その一方で、「かからない」という意味での予防については、日本国内の認知症の有病率は今後も増加すると予測されており、減少傾向が見られ始めた欧米と比べると特異的でした。しかし最近の研究では日本の認知症の有病率にも変化が見え始めています。例えば、介護保険の統計によると、94歳までの高齢者における生活自立度II以上の明確な認知症の有病率が過去3年間(2015年~2017年)で減少した事実が明らかになっており、これは明るくかつ画期的なデータですが、あまり一般に知られる形で情報が伝わっていません。
 大綱において一次予防について、

運動不足の改善、糖尿病や高血圧症等の生活習慣病の予防、社会参加による社会的孤立の解消や役割の保持等が、認知症の発症を遅らせることができる可能性が示唆されていることを踏まえ、予防に関するエビデンスを収集・普及し、正しい理解に基づき、予防を含めた認知症への「備え」としての取組を促す。結果として70歳代での発症を10年間で1歳遅らせることを目指す。また、認知症の発症や進行の仕組みの解明や予防法・診断法・治療法等の研究開発を進める。

といった、参考指標ながら数値目標か入ったことは喜ばしいことです。  食事と認知症の関係については、大塚らの日本における大規模な研究によると、「穀物中心ではなく、色々な食品から構成される食事」の重要性を指摘し、不足しがちな栄養素には注意が必要としています。1)

食品摂取の多様性における認知機能低下リスク1)

食品摂取の多様性における認知機能低下リスク

 このように、認知症は「認知症にならない」という意味だけではなく、「認知症になるのを遅らせる」「認知症になっても進行を穏やかにする」という意味での予防が重要となります。そして、予防のための研究が進んでいます。特に、生活習慣の改善などの日常生活における取り組みの効果も明らかになってきています。
 こうしたことからも、「食から認知機能について考える」ことの意義がご理解いただけるのではないでしょうか。

 一方で、認知症との「共生」については、大綱が策定されるまではスローガンだけで、具体的施策は「認知症カフェ」、「認知症初期集中支援チーム」、「認知症サポーター」など、福祉的な施策が大半でした。
 認知症の方を地域でサポートする「まちづくり」については、地方行政に一任されていました。例えば、愛知県では平成29年9月に「あいちオレンジタウン構想」が策定されています。さらに、愛知県大府市の「大府市認知症に対する不安のないまちづくり推進条例(平成29年12月)」、神戸市の「認知症の人にやさしいまちづくり条例(平成30年4月)」が相次いで制定され、「まちづくりの中身」が次第に問われるようになってきました。
 大綱策定における有識者会議では、愛知県大府市のオレンジタウンミーティング行った「自分ごととしてのアクションプラン」のグループワークの様子が紹介されたことも契機となり、各省庁のトップが認知症施策大綱に資する各省のアクションプラン策定をとりまとめることになりました。大綱の中でも関係省庁が、所管の主な対象に対して認知症に関する啓発活動を開始すること定めています。
 今まで認知症は、例えば自動車事故が問題になれば運転免許の制度の見直しや自動車の安全技術の開発を考えるといった受け身の対応から、「自分の親、友人、いずれ自分も」といった自分ごととして意識が変わっていく中で、認知症との共生に向けて具体的な目標が掲げられたことの意義は大きいと考えます。

 認知症は、子供、孫の世代でより大きな課題となると考えられています。そのような時代に向けて、大綱を育て実現するよう多くの人々の参画が求められています。
 まずは、日常生活の中から、あなた自身やご家族の認知症・認知機能について考えていただくきっかけになれば幸いです。

【参考文献】

1) Otsuka R, et al. Geriatr Gerontol Int. 2017 Jun; 17(6): 937-944.