食と認知機能の
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COLUMN

食と認知機能の維持・改善の関係について
国内の「疫学研究」から見えること②

国立長寿医療研究センター 老化疫学研究部 部長 大塚 礼

前回は、これまでに日本国内で行われた疫学研究からわかってきた食と認知機能の関係を示すエビデンス(科学的根拠)を紹介しました。
今回は、私が所属している国立長寿医療研究センターが行っている疫学研究、「国立長寿医療研究センター・老化に関する長期縦断疫学研究(National Institute for Longevity Sciences - Longitudinal Study of Aging: NILS-LSA)」についてご紹介します。

このNILS-LSAは、日本人の老化の進行過程を明らかにすること、付随して老化に伴い発生する認知機能の低下などの老年病の予防要因を見出すことを目的に、1997年に開始しました。
国立長寿医療研究センターのある愛知県大府市とその隣にある東浦町の住民から性・年齢別に無作為に抽出した約2,300人(1997年~2000年の初回調査時年齢40~79歳)を対象に調査を行っています。
国立長寿医療研究センターの病院内にNILS-LSA用の調査センターを設けて、通常の疫学調査では行わないCTやMRIなども用いた詳細な医学検査も含めた調査を行っています。食事と栄養については、3日間の食事秤量(ひょうりょう)記録調査といって、調理に用いた食材や調味料の量まで計測して記録してもらう手間の掛かる調査から詳細なデータを得ています。認知機能に関しては、WAIS※1とMMSE※2という検査で評価を行っています。これらの調査を約2年ごと現在まで繰り返し行うことでデータを蓄積してきました。
認知機能や知能の加齢変化と、それに関わる要因を医学、栄養学、遺伝的形態学などの分野から分析を行っています。
その結果、様々な食品成分が認知機能に影響を与えていることがわかりました。例えば、ドコサヘキサエン酸(DHA)は脳を構成する脂肪酸の中で最も多いもので、青魚の脂質に多く含まれていますが、食事から多く摂取している方ほど認知機能が維持される傾向があります。同様に、豆・豆製品や乳・乳製品、お茶も摂取量が多いと認知機能低下リスクが下がる(認知機能が維持される)ことがわかってきました。

※1 ウェクスラー知能検査(WAIS):全体的な知的能力や記憶・処理に関する能力を測る検査
※2 ミニメンタルステート検査(MMSE) ※認知症の診断にも用いられる、認知機能の低下を評価する検査

図1. 認知機能維持と関連する食事

一方で、日本人の主食である米が分類される穀類は、認知機能低下リスクを高めることも明らかになりました。しかし、米は摂取量と認知機能には関連が認められず、うどんなどの小麦の麺の摂取量が多いと認知機能低下リスクが高くなっていたのです。さらに詳しく調べてみると、うどんなどの麺類は単品で食べることが多く、用いられる食材も少なりやすい食事であり、そのことが認知機能にも影響するのではないかと考えました。 そこで食材の多様性によって評価できないかと模索し、採用したのが国立がんセンターの片野田先生が開発した「多様性スコア(QUANTIDD)」1)でした。1日に摂った食品の中に占める食品群のばらつきを示す指標で、0~1の間で評価しています。ゼロは全く多様性がないことを示しますが、極端な例でいうと1日米しか食べないような場合を示します。1に近いと多様性が高く、米だけでなく、緑黄色野菜やキノコ類、魚、豆、乳製品などの多様な食材を取り入れた食事であることを示しています。 この多様性スコアで食事の内容を評価してみると、平均値は0.87程度で、0.691~0.953の間に分布していました。これをスコアの低い順に人数で4つのグループに分けて、認知機能低下リスクを比較してみたところ、多様性が高まるほど認知機能低下のリスクが下がる(認知機能が維持される)傾向が認められました。つまり、中高年期にさまざまな食品を摂取することが、認知機能低下リスクを抑制するということが、この研究成果から明らかになったのです。

図2. 食品摂取の多様性と認知機能低下

こうした結果になった理由はまだ明らかにはなっていませんが、1つは、多様性が高い食事を取っていると脳に必要な栄養素の摂取も多く行われる傾向にあるのではないかと考えられます。もう1つは、この研究から示せないことですが、多様性のある食事をするためには、献立を考えたり、食材を料理したり、栄養バランスを考えて購入したり、といった食行動が必要となり、健康への配慮も相まって、食習慣以外のいろいろな要素を通じて、認知機能に良い影響を与えたのではないかと推察しています。
食事は毎日欠かせないものです。おいしく楽しく食事をすることは心を豊かにしているとも言われています。将来の認知機能に配慮するために、多様な食材を取り入れた食事を意識してみてはいかがでしょうか。

【参考文献】
1)Katanoda K, et al. Nutrition. 2006 Mar; 22(3): 283-7. [PMID: 16500555] [PMID: 16500555]