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アンチエイジングは現代の養生

順天堂大学泌尿器外科学 教授 堀江 重郎

 アンチエイジングというと、若く見られたいという人の欲望につけこむ怪しげな商売のうたい文句ではないかと苦々しく思われている方も多いと思います。振り返ってみるとこのアンチエイジングへの関心のたかまりは30年前にはありませんでした。この30年の間に実は医学は大きく進歩して、加齢がどういう影響を皮膚、眼、脳といった臓器、そしてそれを構成する細胞や血管に与えるかが解明されてきたのです。ネットにはアンチエイジング情報が氾濫しています。アンチエイジングについて、世の中の多くの人が関心を持っている背景には、自分の意思で自分の体調を管理したい、自分の容姿を整えたい、という関心が高まっているのだと思います。

 アンチエイジングの基本は「あの人は若いね!」ですね

 「若さ」つまり暦での年齢でなく、現実的な加齢度を客観的に測定できる指標として、血液の細胞である白血球のテロメアの長さがあります。

 テロメアというのは、DNAを格納している染色体の末端に付いている部分で、染色体を靴ひもに例えるとその両端についているプラスチック製の覆いのような存在です。私たちの体には37兆個の細胞があり、これらの細胞は、私たちが生きているかぎり分裂し、新たな細胞に入れ代わり続けています。

 例えば、血液の白血球は、数日で入れ替わっていきます。この細胞分裂に深く関わっているのが、細胞の染色体の端にあるテロメアと呼ばれる構造です。細胞が細胞分裂をするたびに、このテロメアは少しずつ短くなりますが、このテロメアがあるおかげで、染色体の端っこは「擦り減らない」ようになっています。テロメアがなくなってしまうと、細胞は細胞分裂ができなくなり、老化して死滅します。

 からだのすべての細胞の中の染色体にこのテロメアがありますが、白血球のテロメアの長さは比較的に簡単に調べることができます。テロメアの長さ、あるいは短くなったテロメアの割合は、うつ病、動脈硬化、心臓病などの頻度と関連することから、加齢度の指標となることがわかっています。このテロメアを発見した米国のエリザベス・ブラックバーン博士は、ノーベル医学生理学賞を受賞しています。

 テロメアを短くしてしまうものには喫煙、そして悲観すること、心理的なストレスがあげられます。また瞑想のような心を平らにする行動はテロメアを長くする方向に働きます。

 このテロメアの長さと見た目の年齢が関係するかどうか、デンマークで双子を対象とした研究がされました。見た目年齢はテロメアの長さと関係していました。見た目の若い人のほうが、テロメアが長い傾向があったのです。

 ではアンチエイジングはそもそも果たして可能なのかという疑問に対して、決定的な研究が2014年に発表されています。この研究は、高齢のネズミと、若いネズミの、それぞれのおなかの血管をつないで、お互いの血液が自由に行き来できるようにしてしまうとどういう変化が起こるかを調べたものです。驚いたことに、若いネズミの血液が高齢ネズミに入ると、高齢ネズミの脳神経や筋肉が新たに再生して、機能が改善する、若返りが起こってしまいました。筋肉の衰えや認知力の衰えは、加齢に特徴的な現象ですが、この研究から、加齢によるからだの変化の中には、何らかの物質あるいは何らかの環境の変化で若返りするものがありうることがわかりました。このような研究の進歩から人の寿命も100歳越えが普通になってくるだろうと予想されています。

 アンチエイジング医学の基本は食事(食物に含まれる因子、カロリー摂取、食事の回数、腸内環境)と運動、脳の活動(気分、認知力、意欲)です。

 アンチエイジング医学は、自立した健康長寿を目標にした現代の養生法と言えるでしょう。